Sep 10, 2019
KaMiNG SINGULARITY: aiが神になった世界
遅ればせながら、先月開催されたイベントでの香り演出のご報告です。
令和元年8月9日、渋谷ストリーム ホールで初開催された"2045年、シンギュラリティ後の世界を仮装体験する" AIとアートのスペキュラティブ・フェスティバル、「KaMiNG SINGULARITY: aiが神になった世界」で香りの演出を行いました。
「Future Life Style(未来の生活)」
「New Values(新たな価値観)」
「Art Entertainment(遊びと芸術)」
と、3フロアにまたがり2045年シンギュラリティ後の世界に発現すると想像される世界観が繰り広げられました。
弊社が香りの演出を行ったのは、4Fエントランス部分と6Fアート&ライブパフォーマンスエリア。
(※上の画像は公式サイトよりお借りしています)
フェス内の展示物、演出、コンテンツは、小説版 「KaMiNG SINGULARITY」の物語で展開される世界とクロスオーバーしており、香りもその一要素となっていました。
3話:
私が主演の映画を、私が見ている夢を見た。スクリーンの中の私は、実態の朧な花畑を大きな馬に乗り颯爽と駆け抜ける、漫画みたいに三角に口を開けてカウボーイがよく持っている丸い縄をビュンビュン振り回していた。新しいサイケデリックかと思った。カーテンの遮光機能が徐々に薄くなり、夏の明かりがじんわりと体に染みてくる。レモングラスのアロマの匂いが漂い始め、目の前の壁には今日のスケジュールや服のコーディネート、天気予報、身体のコンディション、出会う確率が高い人、摂取した方が良い食べ物、想定されるリスクと対処方法、あらゆるお告げの一覧が表示されるので、それを確認する。
そう、レモングラス。
2045年のある朝、登場人物の目覚めに合わせてAIがチョイスしたアロマが流れる、という設定で小説内にこの香りが登場します。
人工知能はあらゆる場から集積されたデータに基づき、最適解を出し続けており、この朝に何らかの導きによってAIに選ばれた香りがレモングラス(檸檬茅)なのでした。
作者でありこのイベントの企画者でもある雨宮優さんによると、レモングラスは梶井基次郎の小説から、檸檬(=命のメタファー)を意図しているものだそう(この後、この登場人物は自死するという展開になります)。
人間の嗅覚は鼻〜嗅上皮を介し、神経線維を伝ってインパルスとなり脳にシグナルを送るというメカニズムで成り立っています。そしてそのシグナルが真っ先に到達するのは大脳の中で情動や感情を司る部位、また記憶の中枢である海馬の近くでもあるというのは、太古より人体に備わる不変の機能。
「あんなに執拗こかった憂鬱が、そんなものの一顆で紛らされる
――それにしても心というやつは何という不可思議なやつだろう。」
これは小説「檸檬」の中で主人公がレモンの香りに触れて吐露する心境ですが、人間に「心」というものがありつづける限り、嗅覚によって思考や感情、それにつながる身体機能が影響を受けるというメカニズムも普遍のものとしてあり続けるでしょう。
そして、植物の芳香物質(香り)を人が目的と意図をもって使ってきた歴史は、決して一方的なものではなく、例えば地形発生の過程のように植物と人間の間にたくさんの相互作用をもたらしてきたはずです。
今回のイベントでひとつの未来予想図として提示されたように、今後AIが人間のパフォーマンスを最適化したり、人の意識へのアプローチが当たり前のようになされていく時代になっていくのだとしたら、その中で脳へ独自のアプローチ経路をもつ「嗅覚」の活躍の場はもっと増えていくだろうと実感させられたイベントでした。